オチビサンフィギュアは、あのヱヴァンゲリヲンも手掛けた原型師が作ったものでした!その制作秘話とは?(後半) | MOYOCO ANNO

オチビサンフィギュアは、あのヱヴァンゲリヲンも手掛けた原型師が作ったものでした!その制作秘話とは?(後半)

オチビサンフィギュアは、あのヱヴァンゲリヲンも手掛けた原型師が作ったものでした!その制作秘話とは?

来春の公開を目指してプロジェクトが進行中の「オチビサン」のストップモーション(コマ撮り)アニメ。せっかくならば多少コストを度外視しても、面白くて質の高いものを作りたい!との思いから、今回制作費の一部をファンの皆さんに出資していただく「クラウドファンディング」という方法をとらせていただき、見事に目標を達成いたしました!

ところでこのファンディングの「お返し」の品の中に、オチビサン、ナゼニ、パンくい、ジャックのフィギュアがあることはご存じですか?とってもかわいいこのフィギュアたち、実はあのヱヴァンゲリヲン新劇場版の3DCGも手掛けた、原型師の小林和史さんが一体一体手作りされた大変貴重なものなんです!

そこでスタッフは小林さんに直接お会いして、フィギュアの制作秘話や原型師というお仕事について伺ってきました。

絵を見たとき、自然と立体になったときの造形を思い浮かべていた少年時代

――話を伺っていると、小林さんの「どうやったらかわいくなるのか」と調整していくやり方というのは、その世界観をいかに再現するのかというデフォルメの技術なのかなと思うのですが。でもそれって誰でもができることではないですよね。そういった技術というのはいつどうやって身に付いたのでしょうか?

僕、絵やデッサンを専門的に習ったことってないんですよ。高校も美術じゃなく書道とっていたくらいで(笑)。で、実際インチキなデッサン力しか持ち合わせてないんですけど、物を作ることはほんとに小さい頃から好きで、粘土いじって物作ったりしていて。それで絵を見たときに、これ立体になったらどうなるんだろうというのを勝手に考えるようになっていたんです。

造形師・小林カズシさん

――へえ!小さい頃からですか?

はい。僕が小学校5、6年のときに、ちょうどガンダムのプラモデルのブームがあったんですよ。ほんとクラス中の男子全員がガンプラ作ってるみたいな時代が(笑)。そこで僕もどっぷりハマったんですけど、中学生くらいになるとみんなだんだん作らなくなっていって。女の子にモテたいからって、スポーツとかかっこいい趣味に流れていってしまって(笑)。でも僕はプラモが好きだから「え、なんでみんないなくなっちゃうの?」と思いながらも、ずっと作り続けてきちゃったんです。それからずいぶん後に海洋堂さんのチョコエッグの食玩ブームが起きて、ありとあらゆるものが高クオリティーで立体化された時期があった。そういうものを見たり触ったりしているうちに「あ、この形はこういう風に処理すれば上手くいくんだ」みたいなものが頭の中に蓄積されていって。なんとなくこうすればいいんじゃないか、というのが自然に身に付いたんじゃないかと思うんです。

 

――まるで頭に2Dを3Dに変換するエンジンが積まれているみたいです(笑)。子供の頃から、自分の身体に立体の感覚を刻んでいた、いうのがとても大きかったんですね。

プラモデルでもなんでもいいんですけど、自分で物を作るという体験はとても大事だなと感じますね。いまはCGの制作っていろんな方がやられているんですけど、CGソフトの使い方で一番最初に覚えるのは、ボールとか四角を組み合わせて立体の形をつくっていく「モデリング」という作業なんですよ。だからCGの仕事してる人に「モデリングできますか?」って聞くと、まあだいたい「できます」って言う。でも実際そのモデリングを学んでいる人だからといって、いいものを作れるかというと、必ずしもそうでもないなというのは、僕は仕事を通じて感じることがあります。でも趣味でおもちゃとか模型を作ったり触ったりしている人というのは、CGを覚えると立体としてきちんと成立しているものを作ることができる確率がかなり高いなという風に思います。

 

デジタルで左右対称に作ったものを、あえて崩していく作業

――そもそも今回、オチビサンのフィギュアを作ることになったきっかけを教えて下さい。

4年ほど前、ちょうど僕がカラー(※安野モヨコの夫である庵野秀明監督が設立したアニメ制作会社)でヱヴァンゲリヲン新劇場版の3DCG制作に携わっていたとき、スタッフの中に3Dではない2DCG作業担当の方がいて、僕がその方とZBrushで作業することになりました。いきなり3DCGソフトで立体を作るのは難しいと思ったので、まず粘土でフィギュアを作るところから教え始めたんです。そこでせっかくだからオチビサンを作ってみようという話になって、僕も見本を作り始めた。作りかけを安野さんに見せたら喜んでいただけたんですけど、映画の仕事が本格的に忙しくなって完成しないまま気がつけば4年間経過していたんですよ(笑)。でも今回、オチビサンフィギュア制作の企画が立ちあがったときに、そのことを思い出していただけたみたいで、4年の歳月を経て完成させることができました。

オチビサンフィギュア原型

――4年前にはもうオチビサンの原型は出来ていたんですね。また今回のフィギュア制作にあたって、気を付けた点、苦労した点などはありますか。

今回特に僕が意識していたのは、置物としてかわいい作りにしたいなということです。もっと躍動感あるポーズとか形状だとか、生っぽい表情だとかにしてもよかったとは思うんですけど、実際に飾った時にインテリアに馴染む様な物になればいいなと、あえて少し硬質な、スッとしたイメージで作ってみました。顔の作りはオチビサンが一番むずかしかったかもしれないですね。やっぱり前からみたとき、横から見たとき、斜めから見たときとかで整合性とるのがとても難しいキャラクターだったと思う。

 

――塗装も小林さんがすべて手作業でされているんですか?

はい。塗装で一番手間がかかったのはジャックですね。毛並みの黒い線の模様は手描き感を出したかったので、絵画用の水彩絵の具で一つ一つ線を描いていって。でもただ黒い線を描くとメリハリが効きすぎている感じがしたので、線の上にさらに薄いグレーを塗ってみたり…。

フィギュア・ジャック

それとCGソフトで作った原型は3Dプリンターで出力するのですが、3Dプリンターは樹脂を1層ずつ積層させながら立体物を作るので、どうしても積層跡が残ります。その積層跡はパテという物を薄く塗って、やすりで磨いて消していきます。

 

――そんなに手間がかかってるとは!知りませんでした。 

あと気を付けたことは、CGソフトがあれば左右対称に立体を作るのって簡単にできるんですよ。でも完全に左右対称で作っちゃうとかえってすごく不自然というか、無機質な感じになっちゃうんです。ある程度のところまでは左右対称で作業は進めるんですけど、最後は全部左右非対称になるように、ちょっと形を崩してやるということをしています。

 

――それはとても面白い話ですね。考えてみれば、人間の顔もシンメトリーじゃないですもんね。

手作業で粘土で作ってる分には、自然と揺らぎが入るんですけど、CGは楽して作ると完全なシンメトリーになっちゃうから、そうすると出来あがったものもちょっとなんか味気なくなっちゃう。だからデジタルで原型を作っていても、まったく人の手を加えないでいいかというと、やっぱりそういうわけではないんです。

ナゼニフィギュア

――でもそれも「ちょっと変だな」と違和感を感じられる感覚があるからこそできることですよね。だから最初の「どうすればかわいくなるか」という話と同じように、自分の中に刻まれた「正しい感覚」があるからこそ、それに近づけるっていう作業が生まれてくるんですね。いや、そこまで考えて作っていただいているとは知らなかったです。

(構成・東本由紀子)

>> 前半「こうすればかわいくなる」最後の仕上げは自分の感覚を頼りに」の記事を読む


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