昆布(食べ物エッセイ『くいいじ』より)

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お土産で北海道の昆布を戴いた。

しかも同時に違う人から違う昆布をもらったのだ。
昆布と言えば大抵どこの台所にも有るものだし、お出汁を取るには必要不可欠。なんだかんだで人から戴く率は高い。
縁起物として結納品やお正月のおせちに欠かせない「よろ昆布」だと言うのにいまひとつ華やかな有難みに欠けるのはなぜだろう。
せっかく戴いたのに、また引き出しに眠ることになるのは申し訳ないなあ…と少々重い気分になってしまった。

思えば子供の頃、私が恐怖していた三大お菓子と言うのが有って、そのひとつが「昆布飴」であった。
包み紙は今思い出すと、木版画の様な赤や青の模様が入ったもので昔の日本情緒が残っていた様に思うのだけど、ソフトキャンディー(ハイチュウとか)の様な見た目に騙されて食べてみれば、それは思いっきり昆布以外の何物でも無い。
砂糖で甘くし、やわらかくなった昆布が何枚か重なってギュッと固めてある。
嚙んでいるとニチャニチャとして歯にくっつく。
体に良いおやつとして、お年寄を中心に那智黒などと共に流通していたけれど、「体に良いおやつ」と言うのは子供にとっておやつではない。もらっても殆ど食べなかった。
同年代の友人と話すと知らない人もいるが、知っていた人は
「そんなに嫌いじゃなかった」
とか
「黒っぽいキャラメルだと思っていた」
と言う大雑把な感想が多かった。
同じ昆布を原材料とした大人気おやつ「都こんぶ」と比べると印象が薄いのだろうか。
「都こんぶ」は私も大好きであった。
駄菓子屋で食べるのは決まって「よっちゃんいか」か「都こんぶ」。
「都こんぶ」は薄い昆布が沢山入っていて、ちょっとずつしゃぶっていると随分長い間楽しめるので子供の頃の私の読書の友であった。
おかげで頁の間に昆布に付いている粉が落ち、何だかジャリジャリしている本が多くなってしまった程だ。
しかし都こんぶは余りに食べ過ぎたせいか、大人になるにつれ食べなくなってしまった。
それでも実家にいれば煮物に入っていたり、毎日の様に食卓にのぼる塩昆布やうどんに入れるとろろ昆布と、何かと食べていたのだが、ひとり暮らしをして途端に食べなくなった。
お弁当に入っている昆布巻くらいだろうか。海草はわかめと海苔で事足りていたのか、全く自分では昆布を買わなかったのである。

私が再び昆布と仲良しになるのは粉末のだしを使うのを止めて、昆布と干し椎茸で出汁を取る様になるここ何年かの事だ。
それでも味噌汁の出汁を取った後の昆布で煮物を作っていたのは始めの方だけで、毎日出る昆布を食べ切れず捨ててしまうようになった。
よく出汁を取る「根昆布」は、水を吸って大きくなると鯨の尾に似て海のお使いのようなので捨てるのがしのびないけれど、いかんせん固くて嚙めない。
無理に嚙んだら歯が折れそうだし味ももう抜けてしまっている。
さようなら…といつも見送るように捨てながら、昆布を食べたいなぁと思っていたのだ。

そんな時戴いたのが偶然にも二つ、どちらも食べる用の昆布なのである。
ひとつは北海道尾札部産の
「若生さしみ昆布」
と言うもので、まだ若い昆布を一年で刈り取ったと書いてある。
細い昆布が固まって干してあり、繊維の太い海苔みたいなものを水でもどして食べる。
ドレッシングやマヨネーズで和えても美味しいらしいが、ここはひとつ生姜醬油でいただくことにした。
やわらかいけれどシャキシャキと歯応えが有り本当に美味しい。
煮物などに入れないでこのまま食べるのがぴったりのまさに「おさしみ」だ。干してあるのに何でおさしみなのか疑問であったが納得した。
もうひとつは
「がごめ昆布」
以前テレビで観てからずっと食べてみたいと思っていた昆布だ。
別名「納豆昆布」と言うくらい、水でもどすとものすごいねばりが出る。
普通の昆布のねばりと言うかぬめりぐらいを想像していたけれど、実際にやってみると本当にものすごい段違いのねばりであった。
下手すると納豆よりも大量のネバネバ度である。
これに小口切りにした長葱を入れて白だしか醤油を少したらし、後は何を入れようかな? とひと口食べたらあまりの美味しさにびっくり仰天した。
御飯に載せて食べても最高だけど、袋の裏の説明によればお吸い物や味噌汁に入れても良いらしい。出汁用の昆布も必要ないのだ。
夜には卵を落としてそのまま和風パスタにしてみたがこれもいける。
すぐに一袋なくなってしまいそうなので、どちらの品もすぐに注文しようと思っている。
戴き物のおかげで昆布との友情は復活の上に盛り上がりそうである。

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食べ物エッセイ『くいいじ』<文藝春秋>より

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