バターナッツ(食べ物エッセイ『くいいじ』より)

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差し入れで野菜のケーキを戴いた。
プチトマトのショートケーキや枝豆のムースと言ったところで見た目は一見普通のケーキと変わらないけれど、モンブランだと思ってひとさじ食べてみればほんのり甘いコーンスープの風味がするトウモロコシのモンブランだったりする。
買って来てくれた編集者は目移りしたあまり三人しか居ない仕事場に十個ものケーキが入った大箱を持って現れたのだった。
野菜のお菓子と言うのは見た目と食べた時のギャップが面白いのではないかと思う。目で見て「甘い物」だと思うのに口に入れればどれも甘さが控え目で食べていても何だか食べた気がしない。
ひょっとして二個…いや三個ずつでもイケるのではないかと言う気にもなる。
そうか、それを見越しての十個であったか…と感心しているといつの間にか来ていた担当Sと共に編集者二名もガッチリケーキを食べて居た。
一人あたまの割り当ては二個に目減りしたのであった。

野菜と言えば、先日地元でとれた野菜を使うフレンチのお店へ行った時のこと、カウンター席に座ってふと前を見ると、まるまると実った野菜達が所狭しと並んでいた。
トマトや玉葱などの見慣れた野菜に混じって、全く未知の野菜が有る。
大根よりも少し細めで、形からするとどうやらズッキーニの一種だろうか。
胴の細い大きめの瓜と言う感じのフォルムだが、一番下の部分は南瓜の様にすぼまって居る。
何より皮の色が完全なる肌色なのであった。
「あの野菜…」
「うん。お尻そっくりだね」
私達は小声でささやき合った。
一番下のプリンとした部分はまさにお尻。
それも、のはらしんのすけ君のお尻にそっくりなのである。

前の日にも違う店で「赤いオクラと緑の茄子のマリネ」なる物を食べたばかりだったので、色の違う野菜が流行しているのだな、と考えた。
赤いオクラと緑の茄子は色こそ違えど、味は全く変わりが無い。
物珍しいのと色味が鮮かなのが楽しいけれど、食べてびっくりと言う事も無い。
一度「黒トマト」と言う物も驚きの余り買ってみたが、これも味は普通のトマトと変わらない。
「黒い食べ物は体に良い」と言う流れで生まれた物なのだろうか…。
トマトは黒くなくてもいいんじゃないかと思ったのを覚えている。
なにしろ真っ黒と言う訳では無く、普通のトマトが黒ずんでいる程度なので一見いたんでいる様に見えてしまう。
味は美味しい普通のトマトなのに食卓での人気は今ひとつであった。

そんな話を思い出していると、そろそろとメインが出て来た。
それぞれ羊やうずらを頼んだのだけれど、どちらもたっぷりと野菜のグリルが盛り合わせてある。
岩塩とオリーブオイルをかけてオーブンで焼いただけのシンプルさが野菜達の味を引き出していて本当に美味しい。
お肉の台座の様に据えられた大きな輪切りにもナイフを入れ、ひと口食べて「?」となった。
仕事中に皆で食べた南瓜のベーコン炒めの味がじゃがいもそっくりだった時、スタッフのミナちゃんが
「じゃがいもで作ったジャーマンポテトだ」
と叫んでいた。
ジャーマンポテトはそもそもじゃがいもで作るのだが、どう見ても南瓜で作られたそれを、本人も南瓜だと認識しているのに、味の感覚から何度もじゃがいもと言ってしまう。
その時の様な見た目と味が一致しない、なんとも不思議な感覚がこの野菜にも有った。
南瓜の様でいて甘くなく、じゃがいもの様でいてもっとこってりして居る。
お店のシェフに尋ねると、それは例のお尻そっくりなアイツであり「バターナッツ」と言う名前の野菜だと教えてくれた。
バターナッツ…
お尻そっくりな上に何と言うこってりした名称であろうか。
鼻血が出そうである。
しかし、そのこってりは他の油を調理に使って出しているのでは無く、そのものが持つ油分なのである。
この濃厚さを利用して何が作れるのかを考えたところ、物足りなさが玉にキズの野菜ケーキがピッタリなのではないかと思い付いた。
ヘルシーだけどアッサリし過ぎる野菜のケーキに革命児が登場するのだ。
野菜自身のこってりさで他の追随を許さない濃厚でクリーミーなケーキを実現!

しかしそこ迄考えてふと気付いた。
「バターナッツのケーキ」
と言う名でお店に出しては鼻血が出そうなケーキだと思われてしまう。
ヘルシーさを求めるお客さん達には買ってもらえないかも知れない。
いっそのこと
「お尻そっくりの野菜で作った濃厚なケーキ」
ぐらいに押しの強い名前にしたらどうだろう。
私なら絶対買ってしまうと思うのだが。

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食べ物エッセイ『くいいじ』<文藝春秋>より

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