『季刊エス』インタビューより⑤ー漫画の枠を越えた創作についてー

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―そのあたりのテーマは本当に面白いです。今後も『鼻下長』を読む上で追っていきたいと思っています。それでは少し話は変わりますが、安野さんの作品は、雑貨になったりしていますよね。『鼻下長』でも下着メーカーとコラボで、下着を作られると聞きました。

安野:楽しいですね。クラシカルなムードで、ビスチエにガーターがついているものをデザインしました。下はショーツ。パニエもつけたかったんだけど、それは今回はつきません。

―実際に、『鼻下長』の漫画の中でキャラクターが着たりするんですか?

安野:うん、出したりする。

―それは楽しみです。『鼻下長』の下着もそうですけど、『オチビサン』でも雑貨がいろいろと作られていますね。今、絵を描く人の間で、「自分で雑貨を作りたい」という気運が高まっています。例えば自分の絵は、漫画っぽくもあるけど、絵本やファッション的な要素もある。漫画やライトノベル、ゲームの仕事とは違うかも…という人たちも、雑貨ならしっくりくるそうで。

安野:なるほどね。「エス」の投稿者たちの絵は、背景とキャラクターがセットだから。キャラクターだけが目立って、CGの技術で立体感があるというゲームキャラみたいな絵とは違うよね。

―安野さんは漫画を描きながら雑貨や展覧会活動をはじめた先駆者だと感じるのですが、きっかけとして墨流堂がありましたよね。紙版画集の『蔦と鸚鵡』でも巻頭にその図案が入っていました。(墨流堂:安野さんが「紙」にこだわって作っていた雑貨)

安野:あれは包装紙みたいなものを作りたかったんです。本当はポショワールみたいに「印刷が載っている感じ」の風合いにしたかったんですけどね。特殊な紙でやらせてもらえたから嬉しかったです。カードや便せんを作っていましたが、当時は本当に欲しいレターセットがなかったんですよ。和風な雑貨を見ても、ちょっと違うなと思っていましたから。でも、今はすごくいっぱいあるの。ぜんぜん私よりセンス良く植物をデザインしているものが増えて、良かったなあと思います。

―普段描いているのは、キャラクターじゃないですか。植物をモチーフにした図案を作ろうというのは、グッズではなくて本格的ですよね。とても素敵でした。

安野:今もやりたいけどね。例えば、カラスウリをモチーフにしたものも作ったけど、結局やってみると、昔の植物のデザインがいかに優れているかに気づくんです。あの時代の人たちは、植物を写生した絵も凄く上手いんだよね。何枚も何枚もスケッチして、それを最後に図形化している。しかも、すでに図形化されたものが常に身の回りにある環境でしょう。着物の柄もそうでしたから。常に目に入っているエッセンスが混ざった上での完成度。自分が作ると、どうしても今っぽい感じが入っちゃって、やはりプラスチック感が否めない。難しいことだと思うけど、続けてやっていった方が良いと思いますね。

―墨流堂とあわせて、『オチビサン』の展覧会が大阪や東京でおこなわれ、そうして「まめつぶ屋」が出来ましたね。

安野:グッズを作る会社の方が『オチビサン』が凄く好きで、「やりたい!」と言ってくれたんです。最初に作ったのは、私がデザインしたポチ袋でした。手ぬぐいなどが最初の商品ですが、向こうにもデザイナーさんがいるので、あとはもうお任せして。『オチビサン』を好きな人が集まってくれて、とても可愛がってくれています。みんなで「ああしよう、こうしよう」と作ってくれている。

―まめつぶ屋もいろんなところに出展したり、展示もずっと巡回していますよね。滅多にないことだと思います。

安野:まめつぶ屋さんとコルクがやってくれていることなんです。私は、ほぼ漫画の『オチビサン』を描いているだけだから。でも、そういうのを全部私の活動として、皆さんが見てくれているんですよね。でも自分一人じゃとてもできない。だから、若い子たちが「自分でやろう!」と思って、小規模な範囲でグッズを作って、自分の世界観を漫画だけじゃなくて、例えば「お茶碗はこんなのを使っています」という風に、その世界に浸ってもらえる装置を作っていくのはすごく良い考えだと思います。それを具体的にやっていくのはすごく創造的なことだと思う。

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現在発売中の、安野モヨコが表紙イラストを手がけた『季刊エス』10月号。
インタビューのほか、イラストのメイキングも掲載されています!

(スタッフ・美帆)

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