「オチビサンのひみつのはらっぱ」インタビュー —安野モヨコ、絵本への挑戦—(前編)
日常に隠れた自然、小さくも嬉しい季節の変化、そして愛らしい登場人物たち。
そんな魅力にあふれる漫画「オチビサン」が安野モヨコ自身の手で絵本になりました。
小さい頃から自然と本に囲まれて育った安野モヨコが、今回絵本で取り組んだ創作の試みとは、一体なんだったのでしょうか。
自然の中で育った記憶と絵本体験
――今日は安野さん自身の絵本への思いや、子供の頃の話などを伺っていければと思っています。漫画の「オチビサン」では描かれる自然の美しさが大きな魅力の一つだと思うのですが、今回の絵本は自然をより直接的に扱った作品になっていますよね。自然への距離が近いというか、子供の視点からみた自然という感じがします。「オチビサンのひみつのはらっぱ」は安野さんの子供のころの経験から発想されたりしたのですか?
そうですね。自分が小さいときに自然の中で遊んでいた経験が参考になったのかもしれません。小さい頃はまだ裏山が残っていたので、そこに行ってよく遊んでました。親も山に行くのが好きで、山の中に畑を借りていたんです。両親が作業をしている間、私と妹は山で野良猫を追いかけて遊んでました。他にはアケビをとったり、キイチゴを食べたり。野草の野蒜(のびる)は家に帰ってお味噌をつけて食べていました。ある時キイチゴをとって食べてみたら、中に虫がぎっしり入っていたんです!それからはちゃんと確認してから食べるようになりましたね(笑)。
―― そういった経験は今回の絵本にも活かされていますか?
すごく活かされていますね。子供のときは一個一個の植物の名前とかあんまり知らなかったし、ただそこにそれがあるから遊んでいただけだったんですけどね。
―― 次は安野さんの幼少期の絵本との関わりについてお聞きしたいと思います。漫画は勿論たくさん読まれていたと思うんですが、絵本はどうでしたか?
絵本もたくさん読んでましたね。私が子供の頃って周りに本がたくさんあったんです。幼稚園の入園祝いに絵本をもらったり、絵本ばかりが積まれた移動図書館があって、そこで本や紙芝居を借りたりしていました。家にもいとこからのお古でもらった岩波の絵本シリーズが全部ありました。
―― そのなかで好きだった絵本や想い出に残っている絵本はありますか?
たくさんあります。まずは石井桃子先生の『山のこどもたち』。ちょっと渋くて、とにかく和風なんです。大人になってから懐かしくて改めて探しました。阿川弘之先生の『きかんしゃやえもん』を読んでいたので、トーマスを見たときは「やえもんじゃないのか!」と思いましたね(笑)。海外の絵本も色々と読みました。
初山滋先生の『ききみみずきん』は『うりこひめとあまんじゃく』という作品と一冊に半々で入っていて、それも大好きな本です。絵本に出てくる天邪鬼が、かわいいんだけどこわいんです。そういうのって、何でかずっと覚えてるんですよね。
馬場のぼる先生の『11ぴきのねこ』は絵本なのにコマを割ってるんですよ。だけどすごく単純でわかりやすくて、絵もかわいいんです。
―― 絵本にも強い思い入れを持たれているんですね。漫画を読み始めてからも並行して絵本は読んでいたんですか?
中学生くらいまで漫画も絵本も児童文学も大好きだったので、いろいろ読んでいました。大人が読むような難しい小説のときもあれば、宮沢賢治の作品を読むときもありました。
幼い頃に戻りたい気持ちになるときってありますよね。そういうときに絵本を読んでいました。絵本の絵ってノスタルジックな気分にしてくれるような絵が多いんですよね。