「オチビサンのひみつのはらっぱ」インタビュー —安野モヨコ、絵本への挑戦—(後編) | MOYOCO ANNO

「オチビサンのひみつのはらっぱ」インタビュー —安野モヨコ、絵本への挑戦—(後編)

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安野モヨコ、初の絵本「オチビサンのひみつのはらっぱ」。
絵本のつながり、そして自らの挑戦についてのインタビューを前後編に分けて公開します。
安野モヨコのペンネームの由来とともに語られる、絵本への思い入れとは…。

絵本作家・安野光雅先生との繋がり

―― 絵本作家の安野光雅先生には、ペンネームの名前をもらうほどに思い入れがあったんですよね。光雅先生の絵本のエピソードをお聞きしたいです。

幼稚園の入園祝いにもらったのが、安野光雅先生の『ふしぎなさーかす』と『ふしぎなえ』だったんです。『ふしぎなさーかす』は文字がないのにすごくおもしろいんです。最近だと、文字のない絵本ってあまりありませんよね。子供にわかりづらいって思われてるけれど、私はわからなくてもおもしろかったんですよ。
印象に残っている絵でも、安野光雅先生の絵が浮かんできます。トランプに小人が飛び込む絵、インクで書いたちょうちょが紙から浮き上がって飛んでいく絵。一人一人の動きを見たり、家の一軒一軒を数えているだけで信じられないくらい時間が経っていました。今見てもすごいと思うのが、波。波の動きを全部細かく描いていて、ただの波じゃないんです。
それから、絵本に出てくるものが生活にあると嬉しかったですね。夜に親が飲んだワインの瓶とか、リンゴとか。

―― 光雅先生の絵から影響を受けた部分はありますか?

人をたくさん描くのが苦にならないのは、光雅先生の絵を見て育ったからかもしれません。光雅先生に聞いたお話なんですけど、豚の絵を百か千匹ほど描くシーンがあったそうなんです。そしたら周りの人からコンピューターでコピーして増やしたらどうかと言われて、やってみたんだけどだめで、結局ご自身で全て描かれたそうなんです。後ろにいる豚と手前にいる豚の顔がちょっとずつ違うとか、やっぱりそういう部分が大切なんです。私もマンガのモブシーンはアシスタントさんに任せないで、全部自分で描くんです。自分がアシスタントとして他の漫画家さんのところに行っていた時も、一日で200人くらいのモブを描いていました。

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安野光雅先生の『ふしぎな さーかす』、『ふしぎなえ』

初めての絵本製作を通じて

―― 今まで絵本に関しては読み手だったところに、今回初めて絵本を描かれたことになりますよね。苦労された部分はありましたか?

漫画としてのコマ割りのような構造をついつい描いてしまいそうになったところですね。漫画みたいに見開きで何人もオチビサンがいると子供は混乱してしまうって聞いたんです。漫画の絵として自分が描きこみたいと思う部分と、絵本として子どもが読みやすい見せ方のバランスをとるのが難しかったです。わかりやすさだけに特化してしまうのも違うんじゃないか、と悩みました。

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普段とは少しタッチが違うオチビサン

―― 結果的にはある程度漫画としての構造も残しましたよね。これも新しい絵本という感じがしました。ただ、絵本のオチビサンはいつもの漫画と絵のタッチがちがいますよね。

漫画を描くときに使っているペンだと線が細くて、弱くなっちゃうんです。だからちょっと太めにしようと思って、固めの筆ペンで描きました。サインペンよりも太さが安定していない分、それがまたかわいいかなと思って。普段は筆で主線を描くことがないので、筆ペンで描くのは難しかったですね。またいつか絵本を描くときのために練習しようかなと思いました。

―― 絵本の文章は松田素子さんが書かれていますが、このお話についてはどうですか?

松田さんはこのお花のエピソードにすごく思い入れを持っていらっしゃったので、いかにそれを損なわずに書くかということを重要視しました。やっぱりどんな人にも宝物みたいな経験があると思うんです。松田さんも彼女の中の宝物の思い出を出してくれたので、私も大事に描きたいと思いました。

―― 今後絵本という形でやっていきたいことはありますか?

子供たちが夢中になって想像する、そういう絵本を作っていきたいです。子供は絵本を開くとすぐに絵の中に入っていける。そのときの入り込み方ってすごいんですよ。
例えばお花の名前を覚えられる本を描いてみたいです。自分が子供のころに絵本から与えてもらったことを、私の絵を通して今の子供や読んでくださる方々に伝えていきたいです。それが私の仕事で目標でもあるので、読む人の心が育つような絵が描けたらなと思います。

>> 前半「ノスタルジックな気分にしてくれる絵」を読む

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